ビクトル・エリセ『エル・スール』(1983年)
20年以上前に劇場で見た映画。最近ツタヤに行ったらDVDをみつけたので、長い時をへだててふたたび見た。
成長した娘エストレリヤと父親が踊るシーンもあったように思っていたが、なかった。父親は最後、「南」に戻ってしまうとも思い込んでいた。南に行くのは、娘のほうなんだ。
だいぶ記憶ちがいがあったが、個人的な想起ともあいまって、眼がうるんでしまった。「ミツバチのささやき」よりこっちのほうがいいと思う。
静かな映画だ……耳に障るのは、父親がヤケになって山で乱射する遠い銃声と、劇中劇の銃声のみ。それ以外は音楽も必要最低限しかないし、会話以外の音もほとんどない。90分ちょっとで終わるのもいい。
「南」へ行くためにエストレリヤがトランクを閉じるシーンで終わる。「南」に降り立つまでを描かないところが要かもしれない。
最後のシーンの画面の光は、あきらかに過去ではなく、これからのエストレリヤを照らしている。そう感じる。
(フリッパーズ・ギターに「Southbound Excursion(南へ急ごう)」というスキャットだけの名曲がある――いや、これは「南」の連想で思い出しただけ)。
*追記:金井美恵子の『小説論』という本(朝日文庫、2008年)を読んでいたら、巻末の対談で金井美恵子は、「私は『エル・スール』が大好きなんです」と発言している。さらに読むと映画監督の黒沢清という人も『ミツバチ』は「駄目」だけれど『エル・スール』は「大好き」と言っているらしい。わが意を得たり。
